『ソフトウェアが世界を飲み込む理由』

マークアンドリーセン氏によるウォールストリートジャーナル紙への寄稿

今月のウォールストリートジャーナル紙に、ブラウザNetscape開発したことでも有名なソフトウェアエンジニアで投資家でもあるマークアンドリーセン氏(Marc Andreessen)の寄稿文掲載されました。”Why Software Is Eating The World“(ソフトウェア世界飲み込む理由と題された手記には、古いビジネスモデルに基づいた産業ソフトウェアの登場によってビジネス転換余儀なくされ、その「ソフトウェア化」の波に乗れない企業は廃業に追い込まれている構図鮮明に描いています。これは以前このブログの「バリュー・チェーンで見えてくる各社の市場参入戦略」でも紹介した、企業の経済活動によって生み出される価値(バリュー)とその連鎖(バリューチェーン)理解することで、各企業の今後の戦略見えていくることと深く関わっています。

ソフトウェア産業これまで無縁であったような産業まで飲み込んでいるという経済構造の変革期にあって、「あちら側」(古い経済構造)から「こちら側」(新しい経済構造)に企業レベルでも個人レベルでも軸足移すことの重要性など、アンドリーセン氏の寄稿文はとても深い洞察に満ちています。英語の原文はウォールストリートジャーナル紙のサイトで無料公開されています。ここでは、日本語で意訳したものご紹介します。

マークアンドリーセン氏。WikiPediaより。)


ソフトウェア世界飲み込む理由
2011年8月20日 マークアンドリーセン

今週、私ボードメンバー務めるHP社は、課題抱えるPC部門切り離し、成長見込みより高いソフトウェアにより多く投資すること発表した。一方、Google社は、携帯電話端末メーカーのMotorola Mobility社買収する計画にある。この二つの動きは、テクノロジー業界驚かせた。しかし、この二つの動きはまた、私見てきたトレンドに沿ったものである。このトレンドは、株式市場の最近の混乱にもかかわらず、アメリカ経済、そして世界経済の将来成長について私楽観的な気持ちにさせるものである。

一言で言うと、ソフトウェア世界飲み込んでいっている。

1990年代のドットコム・バブルの絶頂期から10年以上経過し、FacebookやTwitterといった新しいインターネット企業、プライベート市場で急速に高騰する企業評価格やIPOによる大量資金調達によって、シリコンバレーで論争引き起こしている。投資家心理の中でいまだに鮮明に記憶されているWebvanやPets.com。そうした記憶から思い出される恐怖心により、人々は「これは危険なニュー・バブルなのか?」と問う。

他の人たちと一緒になって、私はそうではないと主張している。(私は、Andreessen-Horowitzというベンチャーキャピタルの共同設立者であり、ジェネラル・パートナーでもあり、これまでFacebook、Groupon、Skype、Twitter、Zyna、Foursquareに投資してきた。私は個人的にLinkedInにも投資している。)突出した新興インターネット企業の多くは、本物の高い成長性、高い利益率、そして非常に高い(競合企業からの攻撃への)防衛能力のある事業構築していっていると私たちは信じている。

主要テクノロジー企業に関するP/E率(株価収益率)史上最低であることに示されている通り、今の株式市場は、実際は技術毛嫌いしている。例えば、Apple社のP/E率はだいたい15.2であり、Apple社の非常に高い収益率と支配的なマーケット・ポジションにもかかわらず、同社のP/E率は幅広い株式市場のものと同程度である(Apple社は、ここ数週間で時価総額でExxon Mobile抜き、アメリカ最大の企業になった)。そしてなにより、人々そろえて「バブルだ!」と叫んでる時に、バブル起きるはずない。

しかしあまりに多くの議論、シリコンバレーのトップに位置する新興企業持つ本来の価値(intrinsic value)ではなく、財務上の評価に関するものである。私自身の仮説はというと、私たちは劇的かつ広範囲にわたる技術的、そして経済的な移行期にあり、ソフトウェア企業経済の大部分占有してしまおうとしている、まさにそんな時期に直面しているということだ。

映画から農業、そして国防に至るまで、主要企業や主要産業のより多くソフトウェア上で運営され、オンラインサービスとして提供されている。勝者の多く、従来の産業構造に参入して(伝統的企業)駆逐しているような、シリコンバレー流の起業家生まれのテクノロジー企業である。この先10年、私はより多くの産業ソフトウェアによって崩壊させられ、世界最先端の新興シリコンバレー企業、多くの場合その崩壊引き起こすだろうと期待している。

なぜ今こういう事態起きているのか?

コンピュータ革命から60年、マイクロプロセッサーの発明から40年、そして近代インターネット興隆してから20年、ソフトウェアによって産業変革するのに必要な技術の全て、ようやく実用化され、世界規模で広く提供されるようになった。

今では20億人以上の人々広帯域インターネット利用しており、これは、私Netscapre社に在籍していた10年前には5,000万人程度であったことからすると、急拡大である。次の10年で、私は世界中で少なくとも50億人の人々スマートフォン所有するようになり、そうした電話全員に普及することで、毎日いつでもインターネットの全機能にすぐさまアクセスできる時代来ると期待している。

裏側の世界では、ソフトウェアのプログラミングツールとインターネット・ベースのサービスによって、新たなインフラへの投資や従業員の訓練必要とせずに、新たなグローバル規模のソフトウェア・ベースのスタートアップ企業多くの産業で生まれること容易にになる。2000年、私のビジネスパートナーであるBen Horowwitz最初のクラウド・コンピューティング会社LoudcloudのCEOだった際、基本的なインターネットアプリケーション導入している顧客1社の毎月のコストは約15万ドルだった。今、同じアプリケーションAmazonのクラウド上で運用するコストは、毎月、約1,500ドル程度である。

スタートアップコストり、オンラインサービスに対する市場拡大した結果初めて完全にデジタルでつなるグローバル経済である。これは、1990年代当初のサイバー世界のビジョナリー(先見の明持った人)全員にとって、一世代まるまる経過してようやくかなった夢である。

ソフトウェア伝統的なビジネス飲み込むというこの現象最も劇的に表している例は、おそらくBorders社の自殺行為とそれに伴うAmazon社の躍進だろう。2001年、Borders社は、同社のオンラインビジネス、オンライン書籍販売非戦略的事業で重要ではないという仮説に基づき、Amazon社に譲渡することで合意した。

今日、世界最大の書籍販売会社のAmazon社は、ソフトウェア企業である。同社の核となる能力は、基本的にすべてオンラインで販売するというその素晴らしいソフトウェア・エンジンであり、小売店舗は必要ではない。それに加えて、Borders社差し迫った破産の苦痛にさいなまれていたとき、Amazon社は、初めて物理的な書籍にとって代わる、Kindle向け電子書籍プロモーションするために自社サイト変更しようとしていた。今では、本ですらソフトウェアなのだ。

定期利用者数から、今最も規模の大きなビデオサービス会社は、ソフトウェア企業のNetflix社である。いかにしてNetflix社Blockbuster社(DVDレンタルビジネス最大手)骨抜きにしたかは古い逸話となっている、今、その他の伝統的なエンターテイメント会社まさに同じ脅威に直面している。Comcast社、Time Warner社などの各社は、TV Everywhereといった、映像コンテンツ物理的なケーブルから解き放ち、スマートフォンやタブレットに提供するなどして、自社ソフトウェア企業へと変革することで対応しようとしている。

現在、支配的な音楽会社も、Apple社のiTunes、SpotifyやPandoraなどのソフトウェア企業である。伝統的なレコード会社は、ますます、これらソフトウェア企業に対してコンテンツ提供するためだけの存在になっている。デジタル・チャンネルからの業界売上は、2010年に46億ドルになり総売り上げの29%にまで成長。2004年は総売り上げの2%でしかなかった。

今、最も成長スピードの速いエンターテイメント会社は、ビデオゲーム制作会社(これもまたソフトウェア会社)である。5年前の300億ドルという業界規模から、600億ドルにまで成長している。そして最も成長著しい主要ゲーム会社Zynga社(FarmVilleなどのゲーム制作)であり、ゲーム完全にオンライン上のみで提供している。今年第1四半期の同社売上は、2億3,500万ドルと、1年前に比べて倍以上となっている。アングリーバードの制作会社、Rovio社は、今年、売上1億ドル突破すると見込まれている(同社2009年末にこの人気ゲーム初めて提供開始した際、Rovio社は破産寸前だった)。一方、Electronic Arts社やNintendo社といった老舗のビデオゲーム会社大手は、売上停滞・減退している。

ここ何十年もの間に新たに生まれた映画制作会社で最高位にあるPixar社は、ソフトウェア会社だった。Disney社(そうあのDisney!)は、アニメ映画産業で生き残るために、ソフトウェア会社のPixar買収しなければいけなかった。

写真は、もちろんソフトウェアにずいぶんと前に飲み込まれてしまっている。ソフトウェア・ベースのカメラ内蔵されていない携帯電話購入することは実質上不可能であり、写真は自動的にインターネットにアップロードされ、そこで半永久的に保存され、グローバルに共有される。ShutterflyやSnapfish、Flickrといった企業Kodak社の市場に参入してしまっている。

今日最大のダイレクト・マーケティング・プラットフォームは、ソフトウェア企業のGoogle社である。今では、ソフトウエア使ってリテールマーケティング業界飲み込んでいる、Groupon、Living Social、Foursquare等も参入している。2010年、Groupon社は、設立からたった2年で7億ドル以上の売上生み出している。

今成長最も著しい通信会社はSkype社である。同社もソフトウェア会社であり、最近、Microsoft社に85億ドルで買収された。米国で3番目の規模の通信会社、CenturyLink社(時価総額200億ドル)は、6月30日末時点で1,500万の接続回線あった。これは年率約7%で縮小していること指す。Qwest社買収に伴う売上除いて、CenturyLink社のレガシー・サービスから得られる売上は、11%以上も減少している。一方、2大通信会社であるAT&TとVerizonは、Apple社やその他スマートフォン・メーカーとパートナー提携することで、自社ソフトウェア企業へと変革して生き残りはかっている。

LinkedInは、今、最も成長の速いリクルーティング企業である。史上初めて、LinkedInのサイト上で、社員たちは、リアルタイムで検索する採用担当者たちに向けて自分の履歴書提示できるようになった。これは、LinkedInに、4,000億ドルにのぼるリクルーティング市場飲み込む機会与えている。

ソフトウェアはまた、主に物理的な世界に存在していると広く思われている産業のバリューチェーンについても、多く飲み込んで行っている。現在の自動車において、ソフトウェアエンジン駆動し、安全機能制御し、乗る人たちに娯楽提供し、運転手目的地まで案内し、そして各車体モバイル、衛星、そしてGPSネットワークに接続している。組み込まれるソフトウェアあまりに多くなり、車好き自分の愛車修理できるという時代はずいぶんと過去のことになってしまった。ハイブリッド車や電気自動車といったトレンドは、ソフトウェアへのシフト加速こそすれ、減速することはない。電気自動車は、完全にコンピュータによって制御されている。そして、ソフトウェアの力で運転手なしの自動車設計するという動きは、Google社やその他の主要自動車会社によって既に取り組み始まっている。

現在、主導的な立場にある実世界の小売会社、Wal-Mart社は、その流通機能高めるためにソフトウェア利用しており、競合他社駆逐するために利用している。同じように、FedEx社も、たまたまトラック、飛行機、流通ハブ備えたソフトウェアネットワーク企業と考えることできる。そして、今日の航空会社の成功・失敗とその将来は、ソフトウェア活用することで、航空運賃の価格決定し、ルートおよび収益正しく最善化できる能力にかかっている。

石油およびガス会社は、今日の原油とガスの探査作業にとって欠かせないスーパーコンピューティングとデータの可視化・分析において、アーリー・イノベーターであった。農業も、ますますソフトウェアによって強化されてきており、土地面積ごとの種子の選定ソフトウェア・アルゴリズム、そしれそれにリンク付けされた土壌の衛星分析など行われている。

金融サービス産業もまた、過去30年にわたって目に見えてソフトウェアによって変革されてきている。事実上、すべての金融トランザクションは、1杯のコーヒーの購入から1兆ドルのクレジットデフォルト・デリバティブの取引にいたるまでソフトウェアによって行われている。そして金融サービス産業における主要イノベーターの多く、誰でもスマートフォンさえあればクレジットカード支払い処理することできる機能提供するSquare社や、PayPal(今年第2四半期、10億ドル以上の売上達成。昨年比31%の上昇)などのソフトウェア企業である。

私の意見では、医療と教育、次にソフトウェアベースとした根本的な変革起きる分野である。私のベンチャー・キャピタル会社は、これら両方の巨大で重要な産業において、積極的なスタートアップ企業支援している。私たちは、これら両産業は、歴史的に見て起業家精神に基づいた変化に対しては非常に抵抗示してきた現在、新しい、ソフトウェア中心に据えた偉大な起業家達によって、臨界点に達する時期にきていると信じている。

国防ですら、ますますソフトウェアベースとなっている。現代の戦闘兵は、情報、通信、兵站、武器の利用法提供するソフトウェアの網目に組み込まれている。ソフトウェアによって動く無人飛行機、人間のパイロットリスクにさらすことなく空爆する。諜報員たちは、テロリスト活動の潜在可能性発見・追跡するために、ソフトウェア活用して大規模なデータマイニング実施している。

あらゆる産業において各社は、ソフトウェア革命やってきていること想定する必要ある。これには、今現在ソフトウェア・ベースである産業も含まれる。Oracle社やMicrosoft社など、既存のソフトウェア大企業ですら、Salesforce.comやAndroid(特にGoogle社大規模ハンドセット製造会社保有している世界では)といった新しいソフトウェアの出現によって、自社製品陳腐化してしまうという危機にますます脅かされている。

いくつかの産業、特に原油やガスといった実世界の構成物重大な産業では、ソフトウェア革命は既存企業にとって絶好のチャンス提供する。しかし、多くの産業において、新たなソフトウェアのアイディアは、新たなシリコンバレー流のスタートアップ企業の登場という結果招き、既存産業に不純物として侵入してくることとなる。この先10年、既存企業とソフトウェアの力得た反乱者との間の戦いは熾烈なものとなるだろう。「創造的破壊」という言葉生み出した経済学者のジョゼフ・シュンペーターは誇りに思うだろう。

そして、自分たちの401(k)(確定拠出型年金)の価値、過去数週間の間に乱高下するの目の当たりにした人々は疑問に思うかもしれない、このことは特にアメリカ経済にとって意味深くポジティブな話である。Google、Amazon、eBay、さらに多くの企業といった、最近の巨大テクノロジー企業の多くアメリカの企業であるということは偶然ではない。偉大な研究大学、リスクに前向きなビジネス文化、イノベーション追求する大量のエクイティー資本、そして信頼のあるビジネス法および契約法は、全世界においても前代未聞であり、比類ないものである。

しかし、私たちはいくつかの課題に直面している。

まず第一に、今日の新興企業はすべて、巨大な経済的逆風に直面した中で生まれており、1990年代の比較的温和な状況のときとは比べ物にならないほど課題困難なものにしている。このような状況の中で創業することに関する良い知らせは、そうした中で成功する企業は、非常に力強く、弾性のあるものになるということである。そして経済いずれ安定化すれば、新興企業の中で最も優れた企業は、さらに早いスピードで成長するだろう。

第二に、アメリカそして世界中において、多くの人々は、ソフトウェア革命の中から生まれる新たな偉大な企業に入社するために必要とされる教育やスキル持ち合わせていない。これは悲劇である。というのも、私共に働いた企業はすべて、才能持った人々足りず、彼らに飢えているからである。全米の失業率とてつもなく高いままの状況の中、シリコンバレーにおいて、条件満たしたソフトウェアエンジニア、マネージャ、マーケター、セールスパーソンたちは、高給で、出世につなる多くの採用オファーいつでも好きな時に手に入れることできる。この問題は、見た目以上に悪い状況である。その理由は、既存の産業に従事している多くの被雇用者たちは、ソフトウェア基にした産業の崩壊・混乱において、間違った反対側に取り残されてしまっており、自分たちの職務分野で二度と就労することできないかもしれないからである。教育以外にこの問題解決する方法はなく、そのための道のりは長い。

最後に、新興企業は、自分たちの価値証明する必要ある。彼らは強力な文化構築し、顧客喜ばせ、自社の競争優位性築き上げ、そして自社の高まる企業評価正当化する必要ある。新たな高成長性の見込めるソフトウェア・ベースの新興企業、既存産業内に立ち上げることは、誰にとっても容易なことではない。それは容赦なく困難なことである。

私は、これまで幸運なことに、新たな種類のソフトウェア企業、その中でも最高の企業の数社と共に働けるという機会に恵まれた。その経験から、こうした企業は、自分たちのビジネス実行するのに実に長けていると語ることできる。こうした企業、もし、私やその他の人たちの期待に応えるパフォーマンスできるならば、こうした企業は、グローバル経済において非常に価値ある土台となる企業に成長し、技術産業これまで追求出来てきた以上に巨大なマーケット飲み込むことになるだろう。

常にこれら企業の企業評価(バリュエーション)疑問視する代わりに、この新世代のテクノロジー企業、いかに目標達成しようとしており、企業と経済にとってどのような広範囲にわたる影響もたらし、アメリカそして全世界中で生み出されるイノベーティブな新しいソフトウェア企業の数増やすために、私たちは全員で何できるのか、ということ理解するために前進しよう。

これは巨大なオポチュニティーである。私は、自分自らの資金どこに投資しようとしているのか理解している。
Comments